
オリンピック発祥の地、ギリシャのオリンピアは、ペロポネス半島西部、二つの川が合流する丘の麓にある。
そう説明されても、正直あまりピンとこない。まして日本に暮らす私たちには。
要するに、ギリシャの静かな田舎町である。
四年に一度、聖火の採火式の報道で名前だけが世界を巡る。けれどそれ以外の季節、この町が話題に上ることはほとんどない。現地を歩いてみると、その理由もすぐに分かる。観光地らしい喧騒はなく、時間は驚くほどゆっくりと流れている。
食事は、金串に刺した素朴な焼き肉や、キャベツで包んだ煮込み料理。どれにも惜しみなくオリーブオイルが使われている。派手さはないが、その土地の暮らしに根ざした味だ。観光客向けというより、ここに暮らす人の日常がそのまま皿にのっている。
肝心のオリンピア遺跡は、思ったよりもこぢんまりしている。体感としては、東京駅周辺ほどの広さだろうか。この場所で、かつて古代オリンピックが行われていた——そう聞いても、実感はなかなか伴わない。石の列と、風と、草の匂いがあるだけだ。
首都アテネから三百キロ。世界中の誰もが知る「オリンピック発祥の地」は、驚くほど素朴な場所だった。老舗の店にふらりと立ち寄り、静かな空気に身を置く。その偶然の出会いだけで、この町は十分に記憶に残る。
冬のオリンピックが華やかに開幕した今、改めて思う。発祥の地や古都に必要なのは、とってつけた観光地化やインバウンドではない。
ここには、何も足さない静けさが、すでにある。
